オバマ勝利演説分析:3点列挙法
2009 年 1 月 19 日
オバマ氏の演説の本が売れています。
A.なぜ、ここまで人を引きつけるのか、少なくともテクニックの面で知りたい人たちがいます。
B.一般の人に感動を与える、思想的なものは何なのか知りたい人たちがいます。
C.あるいは、人が感じている感動を自分も味わいたい人たちがいます。
以前に、「エンパシー(empathy: 共感)」にポイントを置いて、思想的、論理構成的なデンタツについてお伝えしました。これは、Bに関連するものです。
今回は、一般に伝えられている、いくつかのテクニックについてお伝えします。日本のマスコミでは、「オバマ氏の演説は上手」と伝え、また、「どこが上手なのか」知りたい人たちが多くいますので、その点について少し議論したいと思います。
そのうちの一つは、「3点列挙法」と呼ばれるものです。
頭の中に残っている余韻に共鳴させる方法です。
これはベートーベンの運命のテーマである「ジャ・ジャ・ジャ・ジャーン」と同じです。
強いインパクトをもったフレーズを繰り返すのです。
そして、それが真実のもの、現実のものである迫力を作りだします。
私は「オバマ氏は単にテクニックのレベルが高い」ということをここでお伝えしたいのではありません。この説明をとおして、オバマ氏は、テクニックを最大限活かすように、考え抜いていることがわかることをお伝えしたいのです。
営業のトークでも、政治家の演説でも、宣教師の説教でも、一番大切なものは、人の心にどれだけ響かせられるか、ということです。
すごい、ということを伝えるのに、「すごい」と最初から連呼する方法もあるでしょう。でも、すごいとは思っていない人にはあまり通用しません。響きません。
さて、シカゴでのオバマ氏の勝利演説の最初は、ネガティブとポジティブの混合した表現から入ります。
Hello, Chicago!
If there is anyone out there who still doubts that America is a place where all things are possible; who still wonders if the dream of our Founders is alive in our time; who still questions the power of our democracy, tonight is your answer.
シカゴの皆さん!
もし、(今ここに)まだアメリカがなんでもできる、ということをまだ疑っている人がいるならば・・・、また、私たちの建国者たちの夢が生き続けていることを疑っている人がいるならば・・・、そして私たちの民主主義について疑問を挟んでいる人がいるならば・・・今夜がその答えです。
最初から、このように3回も疑いについて繰り返しています(彼の疑いへの疑いです!)。
そして「my answer」ではなく「your answer」なのがポイントです。しばらく後でそれが分かります。
注:doubt(ダウト:うそだろうと思って疑う)、question(クエスチョン:本当かどうか信じられず疑う)
最初の部分を打ち砕くために、それから後の3点列挙法を使用します。
It’s the answer told by …
It’s the answer spoken by …
It’s the answer that led those who’ve been told for …
「なぜならば」と畳み込むように「It’s the answer」を連発します。まず、最初の「It’s the answer」フレーズを見てみましょう。
It’s the answer told by lines that streched around schools and churches in numbers this nation has never seen; by people who waited three hours and four hours, many for the first time in their lives, because they believied that this time must be different; that their voices could be that difference.
学校、教会の周囲にどれなに長い列ができましたか?こんなことこれまであったでしょうか?ほとんどの人にとって、3時間も4時間も投票のために待ち続たことなど初めてだったのではないでしょうか。どうして、こんなことが起こったのでしょうか。今度は違う。今度は自分たちの声が届くと考えたからではないですか?そう、これが1つの答えなのです!
(順番を変えて意訳してみました。)
このようにアメリカの可能性について疑いを持っていることに対する否定を、オバマ氏ではなく、彼の可能性にかけ、熱狂的に支持する人たちの行動という事実を伝えることによって行います。
勝利演説でありながら、「私たちは勝った」とか「自分は勝った」とは言わず、間接的に投票者を称えることで、否定的な意見に対し強烈な攻撃を行います。
しかも、それを三連発するわけですか、ひとたまりもありません。
上のフレーズはその三連発のうちの一発です。
次のフレーズに入ってみましょう。
It’s the answer spken by young and old, rich and poor, Democrat and Republican, black, white, Hispanic, Asian, Native American, gay, straight, disabled and not disabled — Americans who sent a message to the world that we have never been just a collection of individuals or a collection of red states and blue states. We are, and always will be, the United States of America.
若者も老人も、金持ちも貧乏人も、民主党支持者も共和党支持者も、黒人も白人もヒスパニックもアジア人もアメリカ先住民も、同性愛者も非同性愛者も障害者も健常者も。皆が、赤い州(共和党)、青い州(民主党)が混ざった個人の集まりというのではなく、「アメリカ人」として、世界へメッセージを伝えたのです。私たちは、現在、そして未来も「アメリカ合衆国」なのです。そう、これも1つの答えなのです!
時代的な広がり、多様性をすべて出し、すべて認め、すべての力を集める主張をすることで、エネルギーを集めてきたオバマ氏の思想を端的に表すフレーズだと思います。
力を集めるために、敵対するのではなく、二分法を提示するのではなく、「加える」のです。
日本では「チェンジ(変革)」ばかりに脚光があたり、「人々は変革を求めた」と伝えられていますが、オバマ氏の手法の特徴は、変化より、過去と現在と未来の統合であり、分離や分割や対立ではないのです。
英語で「chnage」と言うと、私には「着替える」という意味が一番目に上がってきます。
これは自動詞です。自ら行動し、自ら変化するものです。一般的には、他動詞であり、「他を変える」という意味に考えられがちですが、私は「変わろう!」と言っているように感じられます。
リンカーンやケネディーをなぜ持ち出すのでしょうか?
彼が、単に真似したいからではありません。
皆の心にある希望を振動(=共感、共鳴)させているのです。
人にアピールするときは、相手の心の響くところを響かせるのが一番です。
「そうだ」と思ってもらえるのが一番です。
ちょうど、柔道で、相手の力を使って技をかけるのに似ていると思います。
でも、もう一度申し上げます。
オバマ氏は考え抜いてテクニックを駆使して伝えているのです。
決して、ブッシュ大統領の演説のように「我々側か、それともテロリスト側か」のような単純で浅い思考ではないのです。
もちろん、「I」を極力排除する、謙譲の美も強く意識していると思わざるを得ません。
しかし、それでもアメリカ人に強烈にアピールするのです。
いえ、世界中に。
(3点列挙法の3番目については、次の機会とします)
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